れ落ちる想い 1 

 

 

 

 夏休みに入ってすぐのこと。祐巳は久しぶりに加東さんを訪ねることにした。
 弓子さんとはあれから一度、お宅に伺ってお話をしていたけれど、加東さんはその時たまたま用事があったとかで会えなかったのだ。
 今度は番号もしっかり確認していたので、都合のいい日を聞こうと電話をしたら。ふたつ返事で「じゃあこの日に」ということになった。


『ちょうどいいから佐藤さんを迎えに行かせるわ』
「は?」
 祐巳は思わず目を丸くする。
 サトーさん……って、もしかしなくても聖さま?
『その日、彼女もレポートをしにうちへ来ることになっているのよ』
 同じ授業をとっているから、ということらしい。
『あの人ったらしょっちゅう居眠りしたり、窓の外をボーッと眺めたりしているのよ。いったい何をしに学校へ来ているのかしらね』
「はあ、すみません……」
 つい反射的に謝ってしまう。
 加東さんの口調は、べつにそのことに対して怒っているわけでもなさそうだったけれど。
 ――そういえばいつだったかも、聖さまは授業を抜けだして祐巳達の前に現れた。
『あらいやだ。祐巳ちゃんに謝ってもらいたいわけじゃないわよ』
「いえ、なんとなく」
 そう、なんとなく。だって聖さまは祐巳を見ていて進学をお決めになったということだし。気にしなくていいと言われても、なんだか責任を感じてしまうところもあるわけで。
 加東さんはちょっと笑って、段取りについて話を移した。

 それにしても。あらためて考えると、佐藤聖さまというお人は、本当に絶妙のタイミングで祐巳のピンチに駆けつける。いや、別に監視しているわけじゃないんだから、そういう巡り合わせなんだろうけれど。
 こういうのも、相性なのかな。

『……じゃあ、佐藤さんには安全運転するように言っておくわね』
(え?)
 はっと我に返ると、いつの間にか話がまとまってしまっている。つらつらと考えごとをしていたせいで、気づけば話の内容をあまりちゃんと聞けていなかった。
 あわてて問い直そうとしたら、
「それじゃあ今度ね」
 と電話は無情にも切れてしまう。


(うーん。どうしよう)
 一応日にちや時間はわかっているし、もう一度かけ直すのも気がひける。
 そんなことを考えていたら、ふいに手もとの子機が鳴った。
「もしもし、福沢です」
 ワンコールで出たせいか、電話の向こうで一瞬間が空いた。
『……ハロー、祐巳ちゃん。もしかして私からの電話を待っていた?』
「聖さま!」
 やっぱりこの人は祐巳を見張っているんじゃなかろうか。はたまたエスパー?
『なに驚いているの。加東さんと打ち合わせたんでしょう?』
「あ……!」
 そうでした。
 加東さんは電話を切ったあと、そのまますぐに聖さまと連絡をとったらしい。
『心配しなくても、帰りもちゃんと送るからね』
「お世話おかけします」
 つい、相手には見えもしないのに、お辞儀をしてしまう。
『いいって。加東さんからの厳命だからね。それより、お宅まで伺った方がいい?』
「いえっ、そこまでしていただくわけには」
 別にいいのに、と言う聖さまを押し切って、車を停めやすい近所のコンビニ前の駐車場を指定する。
『オーケー。じゃあ、一時半に待ち合わせね』
「はい」
『じゃあまたね。バイバイ』
「はい。失礼いたします」
 聖さまが他人行儀だなぁと笑って、電話が切れた。

 ――うん。ここまで来たら、とにかく問題は、聖さまの運転技術がどこまで向上しているかということで。
 お正月のあれは初運転だったらしいけれど。似たような時期に免許を取得したと思われる柏木さんの、6月時点の運転を振り返ると、失礼ながらちょっと怖いなあ、というのが祐巳の正直な気持ちだった。


2005/01/01 UP

    

     

 

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