それぞれの学園祭 〜祐麒の場合 2 〜

 

 

 

「相変わらず、出会い頭から攻撃的な人だね。いったい全体、僕のどこがそんなに気にいらなくて噛みついてくるんだい?」
「自覚がないとは、まったくもって救いようのない男だな」


 始まった。この人達、いきなりエンジン全開だ。
 予想通りの成り行きとはいえ、こんなところで火花を散らされたら迷惑だからやめてほしい。唯一頼みの綱とすれば前紅薔薇さまロサ・キネンシスなのだが……あいにく彼女も花寺の元生徒会長を快く思っていないらしく、せめて友人を止めようと動いてくれそうな気配もない。
 ――そりゃそうだろうな。
 何と言ってもこの人は祥子さんのお姉さまグラン・スールなわけだし、柏木先輩にいい印象を持てるわけがない。積極的に参戦はしないが、動向を見守っている感じだ。


「だいたい貴様、来たなら来たで、祐麒に労いのひとつも言ったらどうだ?」
 ――頼むから、そこで俺を引き合いに出さないでくれ!
「言おうとしたさ、もちろん。そのために来たんだからね。 しかし見知った女性がいれば、当然そちらへの挨拶を優先するものじゃないか。そうしたら君がいきなり喧嘩腰になるから、そんなタイミングがなくなったんだろう」
「他人のせいにするわけか」
「僕は事実を言ったまでだけど?」

 ――さあ、どうする? やはりここは自分が止めに入るべきだろうか。
 本当なら放っておいて、今すぐ回れ右したいくらいだが。
「あの、二人とも」
「「ちょっと黙っててくれないか」」
 みごとなユニゾン。
 祐麒を振り向いた二人は、笑顔でまったく同じ台詞を吐いた。あれだけ言い争っておきながら、こんな時は息がぴったりだ。
 とたん、前白薔薇さまロサ・ギガンティアが不快そうに舌打ちする。
 ――まずい……!
 ヒートアップの予感に、再度割って入ろうとしたまさにその時。


「祐麒さんに、お姉さま。何をなさっているの?」
 開け放たれた控え室の入口に立っていたのは、救世主ならぬ、女神のごとく美しいと評判の現紅薔薇さまロサ・キネンシスだった。
「祥子」
「さっちゃん」
 異口同音の呼びかけに、祥子さんはそこでようやく奥の二人の姿に気づいたらしい。
「優さんまで……。いったい皆さん、どうなさったの?」
「祐麒さんにご挨拶に来たら、偶然鉢合わせたのよ 」
 前紅薔薇さまロサ・キネンシスの言葉に、祥子さんは「そうでしたの」と頷いた。
「聞いてよ祥子」
 言いかけた前白薔薇さまロサ・ギガンティアを遮ったのは。
「本日はお招きありがとう。今年の舞台も、素晴らしい出来だったよ」
 さわやかな笑顔を浮かべる柏木先輩。
 祥子さんも微笑んだ。
「ありがとう。祐麒さんや花寺の皆さんのご協力のおかげよ」
「それはよかった。後輩達がぶじにお役に立てたようで、僕も嬉しいよ」

 ――助かった。
 おいてきぼりにされてしまった形の前白薔薇さまロサ・ギガンティアには申しわけないが、何とか最悪の事態は免れたようだ。ホッと胸をなでおろす。
 だが。笑顔のまま、祥子さんが剣呑な一言を放った。
「それで? 優さん、今日はどなたのお招きでいらしたとおっしゃって?」
「いやだな。それは勿論さっちゃんの……」
「あらそう?」
 あくまでもにこやかに続ける祥子さん。
「それでは、赤ん坊を連れたどなたかのご父兄が、私の名前の入ったチケットを持っていらしたのはどういうことかしらね?」
 一瞬言葉につまって、柏木先輩がバツの悪そうな顔になる。
「なんだ、ばれていたのか」
「……やっぱり、優さんの仕業だったのね」
 祥子さんは溜息をついた。
 確かに、柏木先輩なら、学園祭チケットなんて山ほどもらっていそうだけれど。
 ――よりにもよって、祥子さんのチケットを他人に譲ったりするか?
「それでは、今日は瞳子ちゃんのチケットでいらしたのね?」
 どうしてもその点が気になるらしく、祥子さんが言うと、先輩は「いや」と否定する。悪びれるということを知らないのか、もうすっかりいつもの笑顔で、さらりと爆弾発言を落とした。
「実は祐巳ちゃんのチケットで」
「え?!」
 かざして見せたチケットに、居合わせた全員が息を呑む。

 ――ああもうっ! なんでこの人はわざわざそういうことを……!


2004/11/03 UP

    

     

 

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